新 武蔵野人文資源研究所日報

旧武蔵野人文資源研究所日報・同annex移行統合版

2015年 感心した書籍選10点

かつては毎年これを行っておりましたが、このたびブログ統合記念に復活させてみます。昨年刊行のもの、順不同にて。特にこれらがベスト! と力むわけでもありません。非常に感心して、忘れちゃった本もいろいろあるんですが。

では、本年も宜しくお願い申し上げます。

 

カール・クラウス 闇にひとつ炬火あり (講談社学術文庫)

カール・クラウス 闇にひとつ炬火あり (講談社学術文庫)

 

 復刊ですが、未読でしたので。池内先生の代表作だと思います。

 

 

論理と歴史―東アジア仏教論理学の形成と展開

論理と歴史―東アジア仏教論理学の形成と展開

 

 仏教学における因明(論理学)の研究には宇井伯寿の『東洋の論理 空と因明』という越えられない壁のような書籍がどーんと存在しますが、どうも取り付くシマがない。私たちの時代に共通の思考法で批判的に振り返ってほしいものだ――と思っていたところに才人が彗星のように現れた印象。

 

 

古代懐疑主義入門――判断保留の十の方式 (岩波文庫)

古代懐疑主義入門――判断保留の十の方式 (岩波文庫)

 

 ぜんぜん入門じゃない。懐疑主義は悪しき相対主義じゃありませんよ、という、これは良い判断留保ですね。何を言っているかわからんと思うが、まあ読め。

 

 

殺牛・殺馬の民俗学

殺牛・殺馬の民俗学

 

 中世、近世を通じて、各地街道の宿場などには「馬捨場」等が偏在している。隠蔽された重要な民俗ですよ。

 

 

分析美学基本論文集

分析美学基本論文集

 

「美とは何か」というような問題は、古典的な美学以降にもこのような精緻な積み重ねが存在するんですね。まあ何ごともそうですが、「人それぞれじゃないですか」論みたいな論議をする前に、こういう前提を知っておいて損はないですね。少々難解ですが、ある意味現代の「アーティスト」は多少とも認識論や社会学にわたる領域に無知な、ナイーブな存在のままではもはや仕事らしい仕事もできないのが一方の事実だなあとも思います。

 

 

歩兵は攻撃する

歩兵は攻撃する

  • 作者: エルヴィン・ロンメル,田村尚也,大木毅,浜野喬士
  • 出版社/メーカー: 作品社
  • 発売日: 2015/07/31
  • メディア: 単行本
  • この商品を含むブログを見る
 

「砂漠の狐」エルヴィン・ロンメルは 自己宣伝臭の強い本書で一躍ドイツ国防軍のスターに駆け上がりましたが、優秀だが大局観のない戦略眼に欠けるこの手の人物が書き残した、強迫的なまでに緻密な戦術的記録は滅法面白いというのがこのジャンルの定説です。そしてその種の人物はドイツに多い。まあわかりますわね。

 

 

伏字の文化史―検閲・文学・出版

伏字の文化史―検閲・文学・出版

 

 ギリギリ12月刊なのでセーフということで。

伏字とはある種、検閲者との共犯関係のもとで為される、徴候に満ちた文化行為です。そこには出版と表現の「空気」のようなものが刻印される。興趣尽きず。

 

 

テクストの擁護者たち: 近代ヨーロッパにおける人文学の誕生 (bibliotheca hermetica 叢書)

テクストの擁護者たち: 近代ヨーロッパにおける人文学の誕生 (bibliotheca hermetica 叢書)

 

 骨がある本。正直言って読みきれていません。本邦の古典におけるこのような研究が現れるのを待ちたい。間テクストと言いますかね、そういうやつです。

 

 

新版 徒然草 現代語訳付き (角川ソフィア文庫)

新版 徒然草 現代語訳付き (角川ソフィア文庫)

 

 はあ? という声が聞こえますが、「兼好法師は吉田兼好ではない」んですよ皆さん。この若き俊英は、みんな知ってる徒然草の常識を覆したんですよ。それを満を持して学会外に初めて公開したのが本書。本文の注もそれこそ注目。学問というのは発展するもんだ、とつくづく思いました。

 

 

マルセル・シュオッブ全集

マルセル・シュオッブ全集

  • 作者: マルセル・シュオッブ,大濱甫,多田智満子,宮下志朗,千葉文夫,大野多加志,尾方邦雄
  • 出版社/メーカー: 国書刊行会
  • 発売日: 2015/06/26
  • メディア: 単行本
  • この商品を含むブログ (7件) を見る
 

 珠玉、という言葉がありますが、これかな。様々な「文学」が世に存在し、各人それぞれが「これが文学だ」という理想像のようなものを持っているのだろうと思いますが、ヴァレリー、ジイド、ジャリ、ボルヘス、ポラーニョ、澁澤龍彦がそれぞれそのようなものをシュオッブに見出しているといったようなところで、未読の方もどんなものであるのか想像できるのでは。そういうものの全集です。こういうものが出る。不思議な国ですな。

 

※番外(10点を越えましたので)

断片的なものの社会学

断片的なものの社会学

 

 本書についてはいわゆる「話題の本」なのですでに様々な言及があり、こんな場末でわざわざ取り上げるまでもないのですが、しかし裏ベストセラーとも言うべきこの作品は最後に挙げざるを得ないように思いますね。研究者の書いたものではありますが、専門を超えた広がりを持つ瑞々しい文体が魅力。「断片的なもの」を貫くのは、決して断片的ではない、著者の信念のようなもの。

ナボコフ全短編』ウラジーミル・ナボコフ作品社
『阿蘭陀が通る 人間交流の江戸美術史』タイモン・スクリーチ東京大学出版会
『ハイパーアングルポーズ集 SP(怪人)』創美社
『新版 装釘考』西野嘉章平凡社ライブラリー
『写真・ポスターに見るナチス宣伝術』鳥飼行博(青弓社
高野聖五来重角川学芸出版
『古代・中世遺跡と歴史地理学』金田章裕(吉川弘文館
戊辰戦争の史料学』箱石大(勉誠出版
南方熊楠大事典』(勉誠出版
『深読み!日本写真の超名作100』飯沢耕太郎(パイインターナショナル)
『明治精神の構造』松本三之介(岩波現代文庫
『七代目小川治兵衛』尼崎博正(ミネルヴァ書房
『昭和酒場を歩く』藤木TDC・壬生篤(自由国民社
『肉食妻帯考』中村生雄(青土社
『幻のモダニスト 写真家 堀野正雄の世界』東京都写真美術館編(国書刊行会
『出版文化の明治前期』磯部敦(ぺりかん社
『幕末明治見世物事典』倉田善弘編(吉川弘文館
『日本博物誌総合年表』磯野直秀編(平凡社
『オトラント城 崇高の美と起源』H・ウォルポール(研究社)
『不義密通と近世の性民俗』森山豊明(同成社)
ガリ版ものがたり』志村章子(大修館書店
『明朝活字の美しさ』矢作勝美(創元社
『建築のエロティシズム』田中純平凡社新書
『「窓」の思想史』浜本隆志(筑摩選書)
『陸軍登戸研究所〈秘密戦〉の世界』山田朗編(明治大学出版会
『写真経験の社会史』緒川直人・後藤真編(岩田書院
『歴史GISの地平』HGIS研究協議会編(勉誠出版
高橋由一』古田亮(中公新書

銅像受難の近代』平瀬礼太吉川弘文館
『都市風景図鑑』中平卓馬月曜社
『上田毅八郎の箱絵アート集』上田毅八郎(草思社
『きれいな風貌 西村伊作伝』黒川創(新潮社)
『他界へ翔る船 「黄泉の国」の考古学』辰巳和弘(新泉社)
『中世鷹書の文化伝承』二本松泰子(三弥井書店)
『トラブルなう』久田将義ミリオン出版
『明治の東京写真 丸の内・神田・日本橋石黒敬章角川学芸出版
『葛藤する形態 第一次世界大戦と美術』河本真理人文書院
『孤猿随筆』柳田國男岩波文庫
四谷シモン 人形日記』四谷シモン平凡社
『トポグラフィの日本近代』佐藤守弘(青弓社
ユニコード戦記 文字符号の国際標準化バトル』小林龍生(東京電機大学出版局)
『物部の民俗といざなぎ流』松尾恒一(吉川弘文館
『読書清遊』富士川英郎講談社文芸文庫
『和本への招待 日本人と書物の歴史』橋口候之介(角川学芸出版
『「神道」の虚像と実像』井上寛司(講談社現代新書
『地図から消えた島々 幻の日本領と南洋探検家たち』長谷川亮一(吉川弘文館
『都市と戦後 雑踏のなかの都市計画と建築』初田香成(東京大学出版会
『近代「出版者」の誕生』箕輪成男(出版ニュース社)
『思想としての編集者 現代ドイツ・プロテスタンティズムと出版史』深井智朗(新教出版社)
『増補 広告都市・東京 その誕生と死』北田暁大ちくま学芸文庫