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2015年 感心した書籍選10点
かつては毎年これを行っておりましたが、このたびブログ統合記念に復活させてみます。昨年刊行のもの、順不同にて。特にこれらがベスト! と力むわけでもありません。非常に感心して、忘れちゃった本もいろいろあるんですが。
では、本年も宜しくお願い申し上げます。
復刊ですが、未読でしたので。池内先生の代表作だと思います。
仏教学における因明(論理学)の研究には宇井伯寿の『東洋の論理 空と因明』という越えられない壁のような書籍がどーんと存在しますが、どうも取り付くシマがない。私たちの時代に共通の思考法で批判的に振り返ってほしいものだ――と思っていたところに才人が彗星のように現れた印象。
ぜんぜん入門じゃない。懐疑主義は悪しき相対主義じゃありませんよ、という、これは良い判断留保ですね。何を言っているかわからんと思うが、まあ読め。
中世、近世を通じて、各地街道の宿場などには「馬捨場」等が偏在している。隠蔽された重要な民俗ですよ。
「美とは何か」というような問題は、古典的な美学以降にもこのような精緻な積み重ねが存在するんですね。まあ何ごともそうですが、「人それぞれじゃないですか」論みたいな論議をする前に、こういう前提を知っておいて損はないですね。少々難解ですが、ある意味現代の「アーティスト」は多少とも認識論や社会学にわたる領域に無知な、ナイーブな存在のままではもはや仕事らしい仕事もできないのが一方の事実だなあとも思います。
「砂漠の狐」エルヴィン・ロンメルは 自己宣伝臭の強い本書で一躍ドイツ国防軍のスターに駆け上がりましたが、優秀だが大局観のない戦略眼に欠けるこの手の人物が書き残した、強迫的なまでに緻密な戦術的記録は滅法面白いというのがこのジャンルの定説です。そしてその種の人物はドイツに多い。まあわかりますわね。
ギリギリ12月刊なのでセーフということで。
伏字とはある種、検閲者との共犯関係のもとで為される、徴候に満ちた文化行為です。そこには出版と表現の「空気」のようなものが刻印される。興趣尽きず。
テクストの擁護者たち: 近代ヨーロッパにおける人文学の誕生 (bibliotheca hermetica 叢書)
- 作者: アンソニーグラフトン,ヒロ・ヒライ,Anthony Grafton,福西亮輔
- 出版社/メーカー: 勁草書房
- 発売日: 2015/08/20
- メディア: 単行本
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骨がある本。正直言って読みきれていません。本邦の古典におけるこのような研究が現れるのを待ちたい。間テクストと言いますかね、そういうやつです。
はあ? という声が聞こえますが、「兼好法師は吉田兼好ではない」んですよ皆さん。この若き俊英は、みんな知ってる徒然草の常識を覆したんですよ。それを満を持して学会外に初めて公開したのが本書。本文の注もそれこそ注目。学問というのは発展するもんだ、とつくづく思いました。
- 作者: マルセル・シュオッブ,大濱甫,多田智満子,宮下志朗,千葉文夫,大野多加志,尾方邦雄
- 出版社/メーカー: 国書刊行会
- 発売日: 2015/06/26
- メディア: 単行本
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珠玉、という言葉がありますが、これかな。様々な「文学」が世に存在し、各人それぞれが「これが文学だ」という理想像のようなものを持っているのだろうと思いますが、ヴァレリー、ジイド、ジャリ、ボルヘス、ポラーニョ、澁澤龍彦がそれぞれそのようなものをシュオッブに見出しているといったようなところで、未読の方もどんなものであるのか想像できるのでは。そういうものの全集です。こういうものが出る。不思議な国ですな。
※番外(10点を越えましたので)
本書についてはいわゆる「話題の本」なのですでに様々な言及があり、こんな場末でわざわざ取り上げるまでもないのですが、しかし裏ベストセラーとも言うべきこの作品は最後に挙げざるを得ないように思いますね。研究者の書いたものではありますが、専門を超えた広がりを持つ瑞々しい文体が魅力。「断片的なもの」を貫くのは、決して断片的ではない、著者の信念のようなもの。